東京大学教養学部附属教養教育開発機構

Komaba Organization for Educational Development

 

平成20年度文部科学省の「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」 に
本学の取組が採択されました。

 東京大学の「PISA対応の討議力養成プログラムの開発−日本における国際先端の教養教育の実現− 」の取組が、平成20年度の「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」に採択されました。

 「質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)」は、大学設置基準等の改正等への積極的な対応を前提に、各大学・短期大学・高等専門学校から申請された、教育の質の向上につながる教育取組の中から特に優れたものを選定し、広く社会に情報提供するとともに、重点的な財政支援を行うことにより、我が国全体としての高等教育の質の保証、国際競争力の強化に資することを目的としています。

 本学の取組は、文部科学省が設定した課題のうちの「教育方法の工夫改善を主とする取組(申請数583)」の中から、厳正な審査を経て、選定されました。

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◆ 東京大学の取組の概要及び採択理由 ◆

取組内容
PISA対応の討議力養成プログラムの開発−日本における国際先端の教養教育の実現−
取組学部等
教養学部
申請担当者 山本 泰(教養学部附属教養教育開発機構)
取組の概要  PISA(OECD生徒の学習到達度調査)は、世界の学力観を変えたといわれる。従来の知識とその応用という枠組みを超えて、読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシー、問題解決という幅広い学力観を提起し、日本の義務教育もそれに即した教育プログラムの開発を急いでいる。高等教育も例外ではない。OECDは、さらに進んだデセコ(DeSeCo)のキー・コンピテンシーズ(Key Competencies)に準拠した大学生の国際学力調査を準備しており、日本の大学もそのような観点からこれまでの教育プログラムの見直しを迫られている。
 東京大学では、そのような問題意識から、学部2年次を修了した学生全員を対象とした「教養課程(教養教育)の出口調査」を今年3月に初めて実施した。キー・コンピテンシーズの考え方に即して「学問的知識」「論理的・分析的に考える力」「自分の知識や考えを表現する力」「他者と討論する力」「問題を発見し、解決する力」「主体的に行動する力」が2年間の学習によりどの程度養われたかを聞いたものである。PISAが重視する「他者と討論する力」「問題を発見し、解決する力」「主体的に行動する力」の能力は、身についたとする学生が総じて少ないが、特に「他者と討論する力」が養われたと答えた学生が非常に少ないという結果が得られた。討議力は、知識・論理・表現などの能力の総合力であり、機会を与えておけば自然に身につくというような単純なものではないこと、指導にあたる教員も討議力を高めるために何をしたらよいかスキルを持っておらず、十分に取り組んでいないことが原因と思われる。
 東京大学は新しい学習指導要領で学んだ高校生が初めて入学した平成18年度に、教養課程(教養教育)の新カリキュラムを導入したが、本年3月はそれらの学生が教養課程を修了する時期にあたっており、この出口調査は新カリキュラムについてのPDCA(計画・実施・点検・改善)サイクルの一環として実施された。次の段階では、この結果を受けて、「改善」を組織的に実施することが極めて重要である。
 本取組においては、(1)なぜ多くの学生が討議力が身につかなかったと答えているかの分析から始め、指導方法やカリキュラムの問題点を洗い出す。続いて、(2)ファカルティ・ディベロップメントの手法を用いて、スキルや経験を有している教員の授業参観や模擬授業を行い、また国内外で先進的に取り組んでいる教育機関(ハーバード大学など)での実践に参加し、プログラムの開発を行う。(3)これとあわせて、討議を行う仕様になっていない教室の改装を行い、討議力養成プログラムのための特別教室を設置する。
 学生の討議力を高めるために、討議力養成をもっぱらの目的とする授業を別途開設するのではなく、さまざまな形態の授業に埋め込むことの出来るモジュール(小さなプログラム)をいくつか開発し、それらを多数の授業に埋め込むかたちを取る。平成21年度中に基本的なモジュールの開発と環境整備を実施し、21年度には主として文科生を対象とした授業に導入し、成果を評価する。22年度には文科生向けの授業に加えて、理科生を対象とする授業にも展開する。
 文科生理科生あわせて2学年で6000人あまりの学生に対して160以上の授業で討議力養成プログラムが展開されるようにし、多くの学生が複数の授業でこのプログラムに接するようにする。「とても身についた」「ある程度、身についた」と答える学生の比率の合計が「論理的・分析的 に考える力」などの他の設問と同様、50%程度となるようにすることを数値目標とする。教養教育のアウトカムを客観的に評価し、改善サイクルを着実に進める本取組は、「世界一の人材育成の場の提供」を目標とする東京大学にとって死活的に重要である。そこで開発されたプログラムが全国の大学の教育手法に大きな影響を及ぼすこと、また、組織的なPDCAサイクルの実効的な実践が他大学の模範となり広がっていくことが確実に期待される。
選定理由

 

 本件は、東京大学教養学部の、「知識・論理・表現などの能力の総合力」としての「討議力」養成プログラムである。学生アンケートにより、教養教育において「討議力」が身についていないという結果を踏まえ、教養学部としてはこの取組を通して討議力の向上を目標にしている。このことについては、学生アンケートに留まってはいるが、全体的に数値を踏まえた現状分析とそれに基づいた数値目標が掲げられており、また、学部内の実績の共有や海外を含めた学外の実績の共有にも言及があり、客観性の高い取組を志向している点は評価できる。また、様々な授業形態(文系、理系を問わず)の中に「討議力」養成の「モジュール」を埋め込もうとしている点も、学部全体の取組であることを伺わせる。
 討議力養成の中身についても「ミラーリング」手法を取り入れ、曖昧になりがちな討議力養成を「観察」化によって客観化しようとしている点も評価できる。ただし、討議力がこれほどまでに身についていない理由や、これまで行われてきた討議を中心とする授業の課題への分析評価が十分ではなく、何を修正・改善するのかの記述も不足している。取組の実施に当たっては、これらの点に対応しつつ、着実に成果を上げることを期待する。

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