東京大学現代GP KALS サマーキャンプ 〜ICTを活用したアクティブラーニングを考える〜

KALS サマーキャンプ2008 開催報告!

 9月16日(火)に本学駒場キャンパス17号館KALS(Komaba Active Learning Studio)にて「KALSサマーキャンプ2008」を実施しました。本イベントは、学生の能動的な学習活動を促し、支援するためのICTツールや授業方法について、学内外よりアイデアを持ち寄って共有し、洗練しあうことが目的でした。具体的には、そうしたツールや方法の開発に取り組んでいる研究者やメーカの人々にKALSでデモを行ってもらい、参加者の皆でディスカッションを行うという形態をとりました。大学、高校、企業などから23名の参加がありました。

 はじめに、企画者である教養教育開発機構の西森より、本イベントの趣旨が説明されました。授業の内容と方法を規定する様々な要因のうち、本イベントでは、主に教授・学習理論と技術・基盤について注目しながら、学生の能動的な参加が可能な授業の在り方、また、理論や技術をベースとした授業変革の実践や研究の課題とその解決について議論したいという旨が述べられました。また、あわせて、現代GPの支援を受け開発されたBlogシステムや大学総合教育研究センターのMeetVideoExplorer等を活用した、教養学部の基礎演習や英語授業の授業例が報告されました。この後、会場の参加者全員が簡単な自己紹介を行いました。

趣旨説明
趣旨説明

 最初のセッション「授業で使えるICT(特にプレゼンテーションツール)の研究」は、産業技術総合研究所の栗原一貴先生が開発している「ことだま」「BorderlessCanvas」「プレゼン先生」の3つのシステムの紹介でした。「ことだま」は、従来のスライド方式のプレゼンテーションツールの授業での使いにくさに焦点を当てもので、発表の途中でも随時編集ができるという特徴を持ったソフトウェアです (http://dev.tyzoh.jp/trac/kotodama/wiki/)。体験の時間も用意され、参加者たちは、その大きな模造紙のような、ユニークかつ親しみやすいインターフェイスに触れることができました。「BorderlessCanvas」は、ことだまの拡張版で、複数のパソコンで1枚の模造紙を共有して編集を行えるものです。親となるパソコンから子のパソコンの画面制御を行ったり、子の書き込みを親にだけ伝えるなど、多様な役割制御も可能です。複数スクリーンの操作や協調的な資料作成などの利用事例が想定でき、KALSのようなたくさんのPCやディスプレイがある環境をより有効に活用できるツールです。「プレゼンテーション先生」は、プレゼンテーションを行っている人の映像と音声を解析して、話すスピードや言いよどみ、前を向いて話しているのかどうか等を判定するものです。ユーモラスなデモビデオに会場からは笑い声が漏れました。なお、このセッションの発表はもちろん「ことだま」を利用して行われました。
栗原一貴
栗原一貴

 昼食休憩を挟んで、午後は、名古屋大学留学生センターの佐藤弘毅先生による「電子黒板を介したコミュニケーション支援」というタイトルのセッションから始まりました。このセッションでは「i-room」と名付けられた先生の開発したシステムの紹介が行われました。i- roomは、授業中に学生が手元のパソコンや携帯電話から、質問やコメント、「難しい」や「眠い」あるいは「そこをもう一度聞きたい」といった反応を随時入力すると、教室前面の電子黒板にリアルタイムにそれらが表示されるものです。Webサービスとして実現しているもので、利用者は標準的なWebブラウザから利用できます。このツールのねらいは、発言を促して共有し、また電子黒板上に参加者の視線を集中させるといった点にあります。この発表もまたi- roomを活用して行われ、参加者から度々発される質問やコメントをさばきながら、佐藤先生は説明を行いました。まるで講師の先生を囲んで皆で会話しているような感覚をもてた時間でした。
佐藤弘毅
佐藤弘毅


 次のセッションは静岡大学教育学部の益川弘如先生からの報告でした。「ICTを活用した協調学習−理論と実践の知識統合支援−」というタイトルのもと、先生が大学で担当されている「スクールリーダー養成プログラム」の授業事例について紹介がありました。この授業はジグソー学習法を用いて、学生たちが他の学生と関わりながら、様々な学習理論を学び、自身で教授学習理論を構築するというものです。意見交換や情報蓄積の基盤として、wikiが効果的に利用されていました。この授業は、学習者とは主体的に知識を構築するものであり、協調的な話し合いを通して理解を深めることができるという、学習理論に基づいた設計がなされています。こうした理論から考えると、ICTは思考を「外化」し、共有できるところに利点が認められます。学生の参加を促すことに実効性が高いと考えられるジグソー法については、実際の運用のポイントなどに参加者の関心が集まりました。また来期より利用が予定されているビデオ共有システム(授業風景などを映したビデオにコメントをつけて他者と共有できるシステム)と、それを用いた授業内容についても発表がありました。
益川弘如
益川弘如

 最後の報告者は、キーパッド・ジャパン株式会社の松尾理恵さんでした。キーパッド社の取り扱っているAudience Response System(TurningPoint)の製品紹介と、その普及状況などを紹介していただきました。この製品は、学習者がボタンを押すことで教室の反応を瞬時に集計できるシステムの一つですが、端末が小型で赤外線タイプの他に無線周波タイプのものある、レシーバをパソコンにUSBで接続してパワーポイントで集計ができるなどの特徴があります。集計用ソフトはPowerPointのアドオンとして無償で利用でき、様々な形式のレポート(集計結果の報告書)を生成することもできます。また、この秋に予定されているTurningPoint2008の新機能であるPowerPointに依存しない集計ソフトや、インターネット経由で携帯やパソコンから投票できるソフトなどの説明もありました。TurningPointは現在、全世界で500万台の端末が販売されており、日本では30大学で導入されているそうです。会場からは、授業で利用する上で気になる機能の詳細などについて、たくさんの質問が寄せられました。
松尾理恵
松尾理恵

 最後のディスカッションでは、参加者が3つのグループに分かれ、今日の各報告への感想を共有しました。この中では例えば、学生からのレスポンスを集める方法としてどのような手法が望ましいのか、プレゼン先生のようなツールが持つ可能性や限界、ツールの普及や支援体制の在り方、そもそもICT を授業で使うこと・使ってもらうことを推進することの姿勢や課題、講義型と演習型の授業の利点と欠点など、多様な話題が挙げられました。全体としては、研究者が開発したツール、あるいは製品としてのツールを授業で使っていく上での支援体制の戦略的な構築について取り上げ、議論することができました。
 このイベントを通して、東京大学の教養教育におけるICT活用の今後の展開のための豊かなリソースを得ることができたと同時に、大学教育に関心を持つ学外からの参加者の間で活発な情報交換を行うことができました。
ディスカッション
ディスカッション

発表資料

趣旨説明 西森年寿 [PDF:2661KB]
授業に使えるプレゼンツールとは? 栗原一貴 [PDF:2167KB]
電子黒板を介したコミュニケーション支援 佐藤弘毅 [PDF:1065KB]
ICTを活用した協調学習−理論と実践の知識統合支援− 益川弘如 [PDF:11983KB]

開催趣旨

 東京大学現代GPでは、ICTを活用した新たな教養教育の授業モデルを、駒場アクティブラーニングスタジオ(KALS)というフレキシブルで各種ICTツールが利用できる空間を中心として、開発していている。
 今回の企画では、全国の大学で授業方法の工夫や、ICT活用あるいはその研究開発に取組む先生等に、授業方法やツールのデモを、KALSの空間と各種の道具を舞台に行ってもらい、その後、参加者全員でディスカッションを行う。
 このような実践によって、本現代GPの授業モデル開発のためのより豊かなリソースを得るとともに、全国の大学で同様の課題に取り組む人々の間での情報交換を活性化することが狙いである。
 高等教育の教育改革、学習環境のデザイン、ICT活用といった分野に関心をもたれる皆様。是非、ご参加ください。

概要

東京大学現代GP KALS サマーキャンプ
〜ICTを活用したアクティブラーニングを考える〜

主催:東京大学教養学部附属教養教育開発機構
日時:平成20年9月16日(火)10:30-17:00
   17:30〜 懇親会予定(渋谷周辺)
場所:東京大学 駒場Tキャンパス 17号館2階 KALS
   東京都目黒区駒場3-8-1
   京王井の頭線「駒場東大前」下車徒歩5分

・参加無料:事前登録制

参加方法

参加条件
・本企画の様子を写真撮影し、広報・講演資料・現代GP報告書などに用いられる場合がありますことをご了承ください。
・本企画は、参加者全員でディスカッションを行う事を目的としておりますので、積極的にディスカッションにご参加していただける方を希望しております。

申込方法
・本イベントは終了しました。
・参加無料、ただし事前登録制(定員40名まで)

プログラム予定

10:00〜受付開始
10:30〜10:45趣旨説明
 東京大学教養学部附属教養教育開発機構 特任准教授 西森年寿
10:45〜11:45授業に使えるプレゼンツールとは?
 産業技術総合研究所 情報技術研究部門 研究員 栗原一貴
13:00〜14:00電子黒板を介したコミュニケーション支援
 名古屋大学留学生センター 講師 佐藤弘毅
14:10〜15:10ICTを活用した協調学習−理論と実践の知識統合支援−
 静岡大学教育学部情報教育講座 准教授 益川弘如
15:20〜16:20クラスルーム応答システムPRSの紹介、国内外での活用事例
 キーパッド・ジャパン株式会社 松尾理恵
16:30〜17:00フリーディスカッション
17:30〜懇親会(実費負担)
 

お問い合わせ先

東京大学教養学部教養教育開発機構 KALS
email : gp@kals.c.u-tokyo.ac.jp
tel : 03-5465-8204
ウェブ:http://www.komed.c.u-tokyo.ac.jp/gendai/
担当者:西森・林

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