• □東京大学に設置された部局横断型NEDO新環境エネルギー科学創成特別部門(NEDO特別部門)
  •  平成19年度より、東京大学駒場キャンパスの三部局(先端科学技術研究センター、生産技術研究所、教養学部附属教養教育開発機構)に「NEDO新環境エネルギー科学創成特別部門」(以下、NEDO特別部門)が設置されました。これは、独立行政法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)のプロジェクトである「循環社会構築型光触媒産業創成プロジェクト」の一環として採択された「新環境科学創成のための人材育成・異分野融合拠点化事業」により実施されるものです。期間は、平成19年度〜平成23年度で、以下の特徴をもつ教育プロジェクトとなっています。
  • ◆環境とエネルギーの問題解決に向けたミッション型の人材育成
  • ◆実験実習,フィールドワーク,国際交流,を通した実践型の人材育成
  • ◆環境とエネルギーに課題に果敢に挑戦する異分野融合研究の推進
  • ◆本学の環境エネルギー科学の成果を社会へ還元するための情報発信
  • その中で、平成19年度〜20年度は以下のような教育プロジェクトを実施しています。
  • (a)  エネルギー環境に関わる学際的・総合的な教育カリキュラムを設計し、東京大学教養学部の総合科目や主題科目として系統的に開講しています。
  • (b) 代替エネルギー開発事業の現場等に赴くなど、現場に根差した教育プログラムとして全学体験ゼミナールを開講しています。
  • (c)  様々な学問分野の研究者・企業・行政機関の関係者も含めた異分野融合ネットワークを構築し、環境とエネルギーに関する教育の実施・支援体制を整備しています。
  • (d) エネルギー・環境科学に関する教科書などの教材開発、学術書、一般教養書の企画・編纂などを通して、本プログラムで実施したエネルギー環境教育の社会発信を進めています。
  • また、構成教員は国内外のシンポジウムに参加するとともに社会に向けての情報発信を進めています。
  • □課題先進国日本のなかの東京大学の役割とNEDO特別部門
  •   わが国は、20世紀中ごろから、環境、エネルギー、資源、人口構成、医療、教育など、数々の問題を抱えてきた「課題先進国」といえます。これらの課題は、現在では全て世界共通の課題として捉えられつつあり、これらの課題解決をわが国が先行して解決することで、課題先進国から「課題解決先進国」へと飛躍し、わが国が世界のフロントランナーになることが求められています。
  •  東京大学では、こうした課題解決先進国に向けた幅広い人材の育成を目指しています。上記問題群の中でも特に緊急性を要している問題として、環境とエネルギーの問題があります。このNEDO特別部門では、このような問題解決を担う新しい教育と人材育成のプログラムをスタートしました。
  •  環境とエネルギーの問題解決には、自然科学としての環境学だけでなく、経済学や社会学に加え、行政も含めた総合的理解が不可欠です。この特徴を踏まえ、総合大学としての東京大学の教育資産を有効利用するとともに、東京大学で行われている最先端の研究と有機的に結びついた教育を進めます。
  • □NEDO特別部門の教育体制と教育プログラム
  •  人材育成に当たる体制づくりでも新たな試みを行っています。先端科学技術研究センター、生産技術研究所、教養学部附属教養教育開発機構の三部局が協力し、総合的にプロジェクトを推進します。また、大学の教員のみによる閉ざされた教育ではなく、企業研究者や行政担当者など現場を最も知る方々の協力を仰ぎ、幅広く厚みのある教育を行っていきます。平成19年度は、教養課程の教育を中心に行ってきましたが、今後は学部専門課程や大学院に広げ、本来の目的である全課程を網羅していく予定です。この人材育成プロジェクトの推進により、「新しい教育体制」と「新しい教育システム」が確立されれば、これからの環境エネルギー教育のモデルになることも期待されます。
  •  NEDO特別部門の教育体制と教育イメージを上図に示します。NEDO特別部門は、新しい環境エネルギー科学を支える(学部専門課程)、大学院(修士・博士)に至る全ての課程を網羅した教育を目指しています。教養課程においては、科学・技術・政策・社会・経済分野を結びつける教育プログラムを開講し、また洗練された教材を作成することで、「異分野融合型の教養教育」を行います。また学部専門課程では、教育の専門性を高めるとともに学生自らが教育資料の作成や講義のデザインに関与し、学生参加型の環境・エネルギー関連融合講義を開講します。更に、大学院講義においては、各界の有識者や最先端の研究者を講師として招聘し、少人数の大学院生を対象に密度の高い教育を実施します。これらの各課程に共通する教育方針として、「問題解決型実践教育」を掲げています。  これは、フィールドワークや国際交流を通じて、環境・エネルギーの現状把握や再生可能エネルギーの導入を実際に教育の場で活用することを意図しています。 
  •  教養課程の教育プログラムは、「知る」「広げる」「深める」「つなげる」の4つの要素から構成されています(上図)。それぞれの特性に応じて、多彩な講義科目や演習のメニューを用意しています。また、いわゆる授業科目だけではなく、現場での体験を重視するプログラムや、展示ギャラリーなどを活用した教育活動も行っていきます。エネルギーと環境に関する諸問題は、複雑かつ多様な要素から構成されており、問題解決を図るために必要とされる知識能力、経験等も多岐に渡っています。このため、基礎的な導入部分の段階では、問題の複雑さを知ることを重視しています。これを踏まえた上で、各自の問題関心を深めたり、様々な領域へと知見を広げるという段階に入ります。環境問題の解決には、技術開発によるもの、政策によるもの、経済的な仕組みを活用するものなど、多様なアプローチがありますが、それぞれについて深く探求すると同時に、狭い専門分野にとらわれない幅広い教養を身につけます。これらの知識は現実の課題設定や解決手段の選択を最適化することによって初めて意味を持ちます。「つなげる」段階の狙いは多様な知見を有効に使うためのノウハウを学習することにあります。ここでは、実際に問題解決が行われている現場のあり方を学び、さらに学生自らも実践することによって、現実から学ぶプロセスを重視します。以降に実際の取り組みについて、具体例を示します。
  • □取り組み1(開講科目)
  • □講義科目
  • ○総合科目(2008年度より開講)
  • 環境問題と社会の仕組み(地球環境論)
  • 環境エネルギー問題と工学(環境エネルギー工学)
  • 環境とエネルギーの調和と科学(環境エネルギー融合)(予定)
  • ○テーマ講義(2008年度より開講)
  • 環境・エネルギー問題解決へのビジョン:研究開発の現場から・実践の現場から・産業の現場から(予定)
  • □演習科目
  • ○全学自由ゼミナール(2007年度冬学期実施科目)
  • 「地球温暖化の科学と政治」 米本昌平(先端研・特任教授)
  • 「地球温暖化と経済学」山口光恒(先端研・特任教授)
  • ○全学体験ゼミナール(2007年度冬学期実施科目)
  • 「環境と建築演習」加藤道夫(総合文化研究科・教授)
  • 「環境の世紀〜容器包装リサイクル法から見た、日常を取り巻く環境問題の現状と展望〜」瀬川 浩司(先端研・教授)
  • 「エネルギー環境問題を解決する社会の仕組み」丸山康司(教養教育開発機構・特任准教授)
  • 「『海の森』の再生を考える」山本光夫(教養教育開発機構・特任講師)
  • 「再生可能エネルギー技術と普及促進」 飯田誠(教養教育開発機構・特任講師)(2008年度開講予定)
  • ○集中講義型の現地調査プログラム(2008年度より開講)
  • 風力発電と地域社会
  • 「海の森」再生現場の体験
  • 風力発電施設と国内メーカの訪問
  • □取り組み2(講演会)
  •  環境問題に対する関心を学生全般に広げるため、教養学部が主催する「新環境エネルギー講座」、先端研で開催する「インテレクチュアル・カフェ」などのオープンセミナーを開催しています。このセミナーでは、東京大学のネットワークを活かし、国内外の多様な分野の最前線で活躍するゲストスピーカーにお招きしています。内容は、最先端の研究・政策立案過程・企業立場からの取り組み・社会における環境理解など、多様な切り口を紹介し、学生が多面的なアプローチを学ぶ機会を提供しています。
  • □取り組み3(教育支援ツール)
  •  環境エネルギーの最先端の情報発信や自己学習を支援するオンデマンド学習環境を構築中です。これは、講義やシンポジウムなどを収録したビデオサーバーで、将来的にはウェブ上でも利用可能になる予定です。講師の開設映像と連動してパワーポイントなどの資料画像が表示されたり、あらかじめテキスト化された音声データを検索できる機能もあるため、必要な情報等をサーバーの映像/音声/文字の各データから探索することができます。
     また、講義の検索や教室全体で情報共有をできる30台のタブレットPCを備えた専用教室(環境メディア演習室)も設置しました。
     このほか、一般にも公開したギャラリーを設置し展示型の教育活動も行います。この展示では、学内の研究活動やNEDO特別部門の研究教育活動に加え、NEDO技術開発機構の研究開発事業の取り組みなどの紹介も行います。