• 12月18日 「風力発電におけるリスクマネジメント」 (日本気象協会  島田泰夫 氏)
  •   松田氏(横浜国立大学)と古南氏(日本野鳥の会)に続いて風力発電タービンへの野鳥の衝突問題に対する取り組みについて講演.島田氏は松田氏のもとで社会人博士として合意形成を促進させる影響評価手法(リスク・コミュニケーション・ツール)の開発について研究を行っており,島田氏の講演で話題に上がった順応的リスク管理についてより詳細な説明をいただいた.

  • 順応的リスク管理による影響評価手法では,風力発電でいえば,風力発電の停止による事業へのリスクと風力発電の稼働による野鳥へのリスク,つまり事業採算性と個体群の維持を様々なパターン(シナリオ)で算出,数値として提示することで,事業者と市民(野鳥の会等)との合意形成の材料となることが期待される.北海道を例として,風況マップ上の風況のよいエリアから野鳥の生息地を除いてしまうと,ほとんど使用できるエリアが存在しなくなることから,全く鳥衝突問題が起こらないように風力発電施設を建設することはできないことや,事業者と自然保護団体などとの意見が二項対立に陥りやすいが,物事は単純には二分できず,最適解は中間にあることをお話しいただき,リスク管理による数値的目標の設定による合意形成が重要であることを説明していただいた.
  • しかし,リスク管理による影響評価では貴重種の存続を主張するのに対して,市民は個々の命の重要性を主張することから,リスク管理の影響評価自体が合意材料として受け入れられず,対立が生じるという難しさもある.通常,何らかの事業がおこなわれる場合,地方自治体において委員会が設置され,事業者の意見と市民の意見をまとめるのに対して,風力発電事業においては委員会の設置自体が稀であることを挙げ,事業者と市民が直接対決になることが多く,さらに議論の展開が難しくなってしまうという問題もお話しいただいた.
  • また,講義冒頭における,鳥衝突問題の具体的事例として,米国アルタモント地域での大規模ウインドファームにおけるイヌワシ問題について,実際に島田氏が訪れた際の写真等によって紹介をいただけたが,同時に,20年ほど前に建設されたウインドファームではあるが,米国における大規模なウインドファームの迫力を感じさせるものであった.
  •                 (レポート担当:工学系研究科博士1年 神尾 武史)